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映画『海辺のリア』

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 見始めてまもなく、どこか不思議な、何か違うような、なんとなく落ち着かない気分になる。なんだこの違和感はと多少イライラしながら見ていると、やがてそれが、登場する5人の役者以外に、人や車が一切登場しないことだと気づく。映画の舞台となるのは、海辺や山の中の道路や高級老人ホームの正面玄関で、その時間帯は昼間だから、人の姿も車の流れも本来ならあるべき場所だ。なのに、5人以外の一人も、車一台も、見ない。海辺に「海の家」はあるのに、果てしなく続く砂浜には日がな一日、役者たちしかいない。老人ホームの窓からは内部の廊下が丸見えなのに、誰一人通らないし、玄関にも出入りがない。認知症役の仲代達矢が脱走した後で迎えに出る職員もいない。おかしすぎる。電話で話す場面でも、相手の声はない。だから本当にこの5人だけ。まるで舞台劇を見ているかのようだ。
 内容は、84 歳の仲代達矢そのもののよう。ご本人は「仲代達矢のドキュメンタリーとも言える」と喜んでいたというし、最初に完成作を見た弟子たちも号泣したらしい。また監督自身、「一人の人に贈る映画を初めて作った」と言っている。つまりこれは、ある意味、仲代達矢のための映画なのね。相変わらず眼光鋭く、でも滑舌はさすがに衰えた・・・と思ったが、もしやそれも「認知症になった男」という役作りかも!? 6月17日公開。

監督・脚本:小林政広
出演:仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛

 役者として半世紀以上のキャリアを持ち、俳優養成所も主宰する大スターの桑畑兆吉(仲代)。だが今は認知症の疑いがあることから、長女・由紀子(原田)や夫で兆吉の弟子だった行男(阿部)、由紀子の愛人の運転手(小林)らに遺書を書かされた揚げ句、高級老人ホームに送り込まれている。ある日、施設を脱走した兆吉は、シルクのパジャマにコートを羽織り、スーツケースを引きずって海辺に向かう。そこで再会したのは、妻ではない女性に産ませた娘・伸子(黒木)。かつて兆吉は、私生児を産んだ伸子に怒り、家から追い出していたのだった。伸子に「リア王」の最愛の娘・コーディーリアの幻影を見た兆吉は、自身の身にも「リア王」の狂気が乗り移る。人生最後の輝きが戻った兆吉は・・・。


by kikimimi_asabuya | 2017-06-17 20:08 | Movie 映画 | Comments(0)

札幌在住ライターの映画と本と綴りごと


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