人気ブログランキング | 話題のタグを見る

映画「マダム・フローレンス! 夢みるふたり」

映画「マダム・フローレンス! 夢みるふたり」_e0343244_21265130.jpeg
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ニコラス・マーティン
原題:FLORENCE FOSTER JENKINS
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、レベッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ

 “絶世の美女”ならぬ“絶世の音痴”の女性が、あの有名なカーネギーホールを満員にしたという実話を映画化。それは1944年10月25日のこと。カーネギーホールでは今もアーカイブの一番人気だというこのリサイタルで、聴衆にはあの作曲家コール・ポーターもいたという。また彼女のレコードは、デヴィッド・ボウイが“生涯愛した名盤”だというから、日本人には「いったい何事!?」と興味津々な出来事だ。しかも演じるのはM・ストリープ、その夫役には、とろける笑顔と抜群のコメディセンスを持つ“ロマコメの帝王”H・グラント。これはステキだ!と思って見ると…。

 ニューヨーク社交界のトップで資産家のマダム・フローレンス(M・ストリープ)は、大好きな音楽と音楽家を支援するためにヴェルディ・クラブを創設し、さまざまな公演を主催。連れ添って25年の夫シンクレア(H・グラント)は、マネージャーとしても公私ともに彼女をサポートしていた。フローレンスはある日、メトロポリタン・オペラで歌手指導するエドワーズからレッスンを受けたいと言い出す。シンクレアはピアノ伴奏者を面接してコズメ・マクムーン(S・ヘルバーグ)を採用。著名なエドワーズとの仕事に有頂天になるマクムーンだが、フローレンスの第1声を聞いてあ然となる。それは、あまりにもひどい音痴だった。だが彼女自身は、自分の歌唱力が致命的だとは思っていない。やがて彼女は、世界的な権威を誇るカーネギーホールでリサイタルをすると言い出す。実はフローレンスは重病を抱えており、音楽への情熱だけが彼女を生かしていたのだった…。

 実際のフローレンスは76歳にしてカーネギーホールのステージに立つが、その5日後に倒れ、1カ月後にこの世を去っている。彼女の音痴ぶりをあからさまに笑う聴衆もいたが、ちゃんと聴け!という聴衆もいた。だからこそ、コール・ポーターもデヴィッド・ボウイもファンだったのだと思う。でもちょっと意地悪な見方をすると、全ては「お金持ちだったからでしょ」とも思える。レコードを吹き込んだことも、カーネギーホールを借りたことも、聴衆を呼ぶだけの資産があったからでしょ、と。でも、でも、たとえチケットをもらったとしても、下手な歌を聴きに人は足を運ばない。聴衆が彼女の歌を笑顔で聴いたのは、彼女が本当に楽しそうに歌っているからだったのではないだろうか。そして、考えた。美しい声の上手い歌を高慢な態度で歌われるのと、鼻歌以下の歌でも心底楽しそうに愛嬌たっぷりに歌われるのと、どちらが快か、不快か。
金持ちではあったけど“金持ちの道楽”ではなかった音楽への情熱が、人々を笑顔にしたのだと思う。第一声でぶっ飛んだピアニストのマクムーンもカーネギーのころは彼女の信奉者になっていたそうだから、彼女自身が魅力的な人だったのだろうと思う。でも申し訳ないが、本当に、歌は調子っぱずれ(苦笑)。12月1日より公開。


by kikimimi_asabuya | 2016-12-03 21:27 | Movie 映画 | Comments(0)

札幌在住ライターの映画と本と綴りごと


by kikimimi_asabuya